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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)1605号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人服部恭敬の上告趣意について。

常習的暴行等の罪を定めた暴力行為等処罰に関する法律一条の三は、暴行、脅迫等同条所定の行為を常習として行なう習癖のある者が新たに犯した暴行、脅迫等につき、通常の暴行、脅迫等よりも法定刑の重い特別罪を構成するものとした規定であり、刑法に定められた累犯加重の規定の適用を排除する趣旨のものではない。従つて、ある前科の存在をもつて右常習的暴行等の罪の要件たる常習性認定の一資料とした場合においても、その前科と右常習的暴行等の罪とが刑法上の累犯の関係にある場合には、右常習的暴行等の罪につき刑法五六条、五七条等を適用し累犯加重をなすことは当然であるといわなければならない。

ところで、憲法三九条後段の規定は、一の犯罪につき裁判により処罰された上は、同一の犯罪について重ねて処罰されない趣旨を定めたものであると解すべきこと当裁判所昭和三七年一一月七日大法廷判決(刑集一六巻一一号一五〇五頁)の判示するとおりであり、また、刑法所定の累犯加重の規定は、刑法五六条等所定の累犯者であるという事由に基いて、新たに犯した罪に対する法定刑を加重し重い刑罰を科し得べきことを是認したにすぎないもので、前犯に対する確定判決を動かしたり、或いは前犯に対し重ねて刑罰を科する趣旨のものではないから、憲法三九条後段に反するものではないことも当裁判所昭和二四年一二月二一日大法廷判決(刑集三巻一二号二〇六二頁)の判示するところである。しからば、ある前科の存在をもつて前記のように常習的暴行等の罪の要件たる常習性を認定する一資料とした場合においても、そのことは、その前科たる確定判決を動かしたり、前科たる犯罪に対し重ねて刑罰を科する趣旨のものではないことが明らかであるから、憲法三九条後段に違反するものではなく、また、右前科が右常習的暴行等の罪と累犯の関係にある場合には、右常習的暴行等の罪につき刑法五六条、五七条等を適用し累犯加重をすることもなんら憲法三九条後段に違反するものではない。これらの点は、前記各大法廷判決の趣旨に照らして明らかというべきである。従つて所論憲法違反の主張は採用することができない。なお、記録を調べても、本件につき刑訴法四一一条を適用すべき点は認められない。

よつて、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

弁護人の上告趣意

一、第一審判決に対し、弁護人は、被告人の昭和三九年三月一八日、大阪地方裁判所言渡の懲役六月の前科を、被告人の本件所為に対する加重処罰の要件として常習認定の資料とした上更に右同一前科につき、再犯加重をなした点は二重処罰として憲法第三九条に違反するものであるとの主張をした。

原審は之に対し「暴力行為処罰に関する法律一条の三は、同条所定の行為の常習者である事由に基いて、新たに犯した罪の法定刑を重くしたに過ぎないもので、常習性の資料としての従前の行為について懲役刑に処せられている場合にも、これと累犯関係にあるかどうかと無関係に常習性の判断がされるもので、従前の行為である前科と新たに犯した罪とが累犯関係にある場合これに対して累犯加重することは二重処罰に当らない」と判断するものであります。

二、従前の前科が、累犯関係にあるか否かに無関係に本条常習性の判断がなされることは判示のとおり当然のことでありましよう。

弁護人が主張するのは、従前の前科が常習性の判断の資料となり且つ、累犯関係にある本件の場合には、二重処罰になるから、あらためて累犯加重をすることは許されないと言うのであります。

従つて原審の判断には、単に二重処罰にならないと答えるだけで、その理由が明示されてはおりません。

三、常習犯行に対し、常習性そのものを刑の加重要件となすことは弁護人も承知しているところでありますが、本件の始く、従前の前科の存在が、常習性として刑加重の要件となつた場合に、更にその同一前科との関係で累犯の加重をなすことは明らかに同一前科につき、二重処罰をなすに帰し、憲法第三九条に違反すると主張するものであります。

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